アスリートの噛み合わせと今後-その2

その1の続きです

(2)噛み合わせからの身体への影響

下顎骨周囲には136個もの筋肉があり、その過緊張、不適正な状態により頭蓋骨の歪み、頚椎の傾き、捻じれ、変移を引き起こします。その際たる原因は噛み合わせの不正です。その不正のある噛み合わせは周囲筋肉の過緊張を引き起こし、逆もまた同じく、影響を受けます。

頭蓋骨は現在、医学的には歪まないとされていますが、歪みます。(下図のレントゲン写真の歪みは外耳道を固定して基準としています)

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頭蓋骨、頚椎、胸椎、腰椎、仙骨と繋がる内側には脳・脊髄があり、その脳脊髄は脳脊髄硬膜という分厚い弾力性を欠く膜により一括りに覆われています。頭蓋骨は複数の骨により形成されており、内側にある脳は当然複数の骨によって支えられています。頭蓋骨が歪めば脳に影響が及びます。また、頚椎の傾き、捻じれ、変移により脊髄、そこから伸びる脊髄神経にも影響は及びます。もちろんそれは胸椎、腰椎、その内部の脊髄、そこから伸びる脊髄神経にも同様のことが言えます。呼吸器のある胸郭も複数骨の複合体で、骨盤も同様です。その歪みは同様に内部に影響を及ぼします。

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噛み合わせをつくる下顎骨の位置の変移は筋肉の過緊張を生み、頭蓋骨の歪み、頚椎の傾き、捻じれ、変移につながります。下顎骨の変移を考察するのに歯の存在は欠かせません。頭蓋骨の歪みが脳にストレスを与え、脳血流量に変化を及ぼすというデータはありません。しかし想像力さえ働かせれば、枠組みが歪み、捻じれて、内部に問題がないということはあり得ないことです。臨床的には関連症状の緩和、消失は当たり前に起きています。

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噛み合わせの不正により頭蓋骨は歪み、脳血流量に問題が起きるというデータがとれれば様々な問題の解決への糸口となると思います。

噛み合わせが体の歪みにつながり、腰痛につながるということは、情報としてごく一般的です。実際臨床においても腰痛が現れたり消えたりということは診られます。治療中、噛み合わせの調整から腰痛の変化、消失が起きるまでの時間について、体全体の歪みに変化が起こり、もしくは重心の変化から腰の状態に物理的変化が起こり、腰痛に変化がもたらされるという複雑で範囲の広い機械的変化が起きるという説明では、あまりにも反応速度の早さに納得がいかない時が多々あります。

福島県立医科大学の発表によると、原因不明の腰痛患者の脳血流量を調べたところ、7割の腰痛患者の脳血流量が低下しているとされています。

この発表の後、米国、ノースウェスタン大学が更に研究を進め、その結果、慢性腰痛患者は脳の前頭前野部にある側坐核という部位の働きが低下しているという報告をしています。

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通常、腰部で炎症などが起こると、その痛みは脳へと伝わり、側坐核はこの痛みを制御する働きがあります。つまり、側坐核が正常に機能することで人間は必要以上に痛みを感じない仕組みをもっているのです。しかし、脳の血行が悪くなり、側坐核の機能が低下すると、本来抑えれるはずの痛みが抑えられなくなってしまうのです。

頭蓋骨は23個の骨の集合体です。その中で蝶形骨という蝶が羽を大きく広げたような形の骨が眼球のある窪み、眼窩を形成し、頭蓋骨のど真ん中に位置しています。

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そして脳の一部である下垂体がその蝶形骨の上(トルコ鞍)に乗っています。下垂体以外の脳は違う他の骨により支えられている状態です。

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その蝶形骨と下顎骨にある顎関節は外側翼突筋によってつながっています。他にも蝶形骨と下顎骨は内側翼突筋によってもつながっているのですが、下顎骨の変移は顎関節の変移であり、周囲筋の状態の変化をきたすので、つながる蝶形骨は直接的に影響を受けていると言えます。

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ここで噛み合わせの調整により、直後に腰痛に変化が現れる仮説を述べます。噛み合わせの調整中、調整前後に顎関節の動き、周囲筋の状態の変化は指標として常に細かく確認し、下顎骨と蝶形骨をつなぐ外側翼突筋の緊張の緩和を確認します。

蝶形骨の上には下垂体という脳の一部があることは前述しましたが、その周囲には硬膜静脈洞があり、内頚動脈があり、脳神経が走行しています。つまりは脳へとつながる血管、リンパ、神経の重要な交通路であるということです。

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そこには脳脊髄を包む硬膜も存在することを忘れてはなりません。頭蓋骨が歪み、蝶形骨にストレスがかかっている状態であれば、この部分にもストレスがかかっている可能性は高く、脳底部の血流に問題が起きている可能性も十分に考えられます。

噛み合わせの調整により蝶形骨へのストレスが軽減され、下垂体周囲から脳底部の血流に微細ながらも変化が起き、その結果として腰痛の状態に変化が起きているという可能性が考えられます。長期のタイムラインでの頭蓋骨の歪みと脳の血流量の変化と共に、短期的なタイムラインでの噛み合わせの調整時の脳血流の変化のデータも確認できれば、これもまた脳血流の減少などにより引き起こされる未だ解明されていない問題の解決糸口になるかもしれません。

蝶形骨上にある脳下垂体から分泌されるホルモン

*成長ホルモン(growth hormone:GH)

青年期に最も多く分泌され、成長促進作用、代謝作用を発揮して身長を伸ばします。小児期や成長期ではGHの欠乏により体の成長や発達が遅延したりします。成人でもGHの作用が低下することで新陳代謝の低下、疲れやすい、脱力や集中力の低下といった症状が現れることがあります。GHの過剰分泌で小児では巨人症、成人では末端肥大症といった症状を示します。

*乳汁分泌ホルモン(prolactin:PRL)

乳腺の発達に関与。女性が妊娠した際に乳汁分泌を促して妊娠を継続させる働きがあります。

*副腎皮質ホルモン(adrenocorticotropic hormon:ACTH)

ACTHは副腎に作用して、主としてcortisol(副腎皮質ステロイドホルモン)と言われるホルモンの産生に働いています。Cortisolは糖、淡白、脂質、水、電解質など多くの物質の代謝に関係します。免疫機能を抑制する効果を持つglucocorticoidの代表でもあります。ACTHの分泌は主として視床下部から分泌されるCRH(コリチコトロピン放出ホルモン)により促進され、cortisolに自体の増加により抑制されることで、調整されています。ACTH産生下垂体腺腫よりACTHが過剰に分泌された場合、Cushing病といわれる病態を呈します。

*甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone:TSH)

TSHは甲状腺を刺激してその機能を調節しているホルモンです。TSHの分泌は下垂体の上位の視床下部のTRH(サイロトロピン放出ホルモン)によって調節されています。逆に血中の甲状腺ホルモンが増加すると視床下部に対してネガティブフィードバック(TRHを分泌量を減らすようにという指令)がされ、TRHが抑制され、TSHが減少します。バセドウ病(甲状腺ホルモンが過剰に分泌されている状態では、動悸、頻脈、手の振え、発汗過多、体重減少などの症状が認められ、眼球突出等の眼症状や精神症状を伴うこともあります)はこのネガティブフィードバックがうまく作用しなくなり甲状腺が刺激され続けて血中の甲状腺ホルモンが増加されたままの状態になります。

*現在、バセドウ病に関して、なぜネガティブフィードバックが起こらなくなるのかが不明で、投薬による治療、肥大した甲状腺に対しては外科的治療などが行われており、確立された原因療法がない状態です。疾病が発症している状態に頭蓋骨、蝶形骨にストレスがかかり、下垂体、周囲組織に影響が及んでいる状況が存在しないか、その状況を解除した際に変化が現れないか、現在の医学では頭蓋骨は歪まないとされており、医科と歯科が分けられているため、解り得ることはできません。

又、甲状腺からのホルモン分泌が何らかの原因で低下した場合には全身の代謝が低下し、悪寒、発汗低下、嗜眠、体重増加等とともに、粘液水腫(myxedema)と呼ばれる欠乏症状が生じます。

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*性腺刺激ホルモン(gonadotropic:hormone)

性腺刺激ホルモンは男性では精子形成、女性では月経や妊娠やそれに向けての身体を整える働きがあります。下垂体から分泌される性腺刺激ホルモンには、主に黄体形成ホルモン(luteinizing hormone:LH)と卵黄刺激ホルモン(follicle stimulatinghormone:FSH)があり、男性では睾丸の機能を、又、女性では卵巣の機能を調整する働きがあります。視床下部のGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)により分泌が促進されます。

*抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone:ADH)

ADHは腎臓において水分の排泄を制限する働きがあります。これによって水分調整がなされ、体液量を一定に保ちます。ADH分泌障害により、著しい多尿をきたす病態を尿崩症といいます。尿崩症は視床下部ー下垂体後葉系の病変によって二次生尿崩症と、原因が明らかでなくADH分泌障害のみで他の視床下部=下垂体系に異常のない一次尿崩症とがあります。

*オキシトシン(oxytocin)

Oxytocinは、女性で分娩の際に子宮の収縮を促す作用があります。視床下部の室傍核で作られ、神経突起により下垂体柄を通って下垂体後葉へ連絡しています。

不正な噛み合わせの影響により頭蓋骨が歪み、中でも下顎骨と内外側翼突筋により繋がる蝶形骨への影響が下垂体に影響を及ぼすならば、上記のホルモン系に問題が起きても不思議ではありません。

実際、臨床的にはバセドウ病の患者の症状の消失、緩和。不妊の方の妊娠などが診られます。その他、頭痛、肩こり、背中の張り、手のしびれ、左右視力の違い、睡眠障害、うつ病の患者の状態が好転することはよく診られます。

うつ病のリスクは様々な遺伝子の変異や、幼少期の心的外傷、免疫異常など数多くの要因によって増大します。そしてストレスをきっかけとして起こることが多いですが、最近の研究結果により、その仕組みについて1つの可能性が明らかになっています。喜びを期待したり、追い求めたり、感じたりする能力は側坐核という脳の領域の中にある神経伝達物質の1つ、ドーパミンと関わりがあります。ワシントン大学のマシュー・ワナット、ポール・フィリップス両氏らはストレスがネズミのドーパミンに与える影響を調査し、英学術誌、ネイチャーとネイチャー・ニューロサイエンスに発表しました。

(1)ネズミの檻にボールなどの見慣れない物体を入れます。

→ボールを見つけたネズミが探り始めると、側坐核の中でCRF(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン。視床下部から分泌されるペプチドホルモンの一つ。視床下部の底部にある正中隆起の血管網に放出され、下垂体門脈を通って下垂体前葉に到達し、副腎皮質刺激ホルモン[ACTH]の分泌を促進させます。下垂体が視床下部によって調節されている可能性は1950年代にGeoffrey W.Harrisによって提唱されています)という分子が放出され、その結果、ドーパミンの放出が増加します。

(2)薬剤を使いCRFの働きを止めると→ドーパミンは増加しなくなり、ネズミは物体を調べようとはしなくなります。

(3)側坐核にCRFを投与します。→ネズミは繰り返し同じ場所に戻って来るようになります。

(4)ネズミを数日間にわたって大きなストレスにさらし続けます。→CRFがドーパミンの放出を促すことはなく、ネズミは見慣れない物体を避けるようになります。

(5)側坐核にCRFを投与しても、ネズミはCRFが投与された時いた場所を避ける様になります。

ワナット氏らはこの行動を糖質コルチコイドというストレスホルモンの影響によるものだとしています。数日間ストレスにさらされただけで、ネズミは少なくとも3ヶ月間喜びを感じられない状態である無快楽症(アンヘドニア)に陥ったと報告されています。

福島大学、ノースウェスタン大学により、腰痛患者の7割に脳血流量の低下が確認され、側座核の働きが低下しているという報告がされているということを前述しました。通常、腰部で炎症などが起こると、その痛みは脳へと伝わり、側坐核はこの痛みを制御すします。つまり、側坐核が正常に機能することで人間は必要以上に痛みを感じない仕組みをもっています。しかし、脳の血行が悪くなり、側坐核の機能が低下すると、本来抑えれるはずの痛みが抑えられなくなってしまうというわけです。つまり脳の血流の低下は側坐核の機能を低下させ、腰痛を制御できなくなるわけです。

恐怖やストレスは脳の扁桃体を刺激し続け、これによってストレスホルモンであるコルチゾールが分泌し続けられます。うつ病患者はコルチゾール値が高く、コルチゾール分泌が増えると、うつ病が重症化していくことは最近の医学で明らかになっています。

コルチゾール→副腎皮質ホルモンである糖質コルチコイドの一種であり、ヒドロコルチゾンとも呼ばれます。3種の糖質コルチコイドの中で最も生体内量が多く、糖質コルチコイド活性の約95%はこれによるものです。ストレスによっても発散され、分泌量によっては血圧や血糖レベルを高め、免疫機能の低下や不妊をもたらします。またこのホルモンは過剰なストレスにより大量に分泌された場合、脳の海馬を萎縮させることが、近年の PTSD患者の脳のMRIなどを例として観察されています。海馬は記憶形態に深く関わり、これらの患者の生化学的後遺症のひとつとされています。

噛み合わせの不正により頭蓋骨は歪み、歯科治療によりその歪みが影響を受けることは、レントゲン写真により明確に確認されます。

頭蓋骨が歪み、内部の脳にストレスがかかった状態で脳血流量に変化を確認することが、未だ原因の解明されていない、治療法の確立されていない疾患の解明につながる可能性があると考えています。

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2015年、バージニア大学医学部で中枢系リンパ管というまったく新しい組織が人間の体内に存在することが発見されました。中枢系リンパ管は脳から余分・不要なリンパ液を廃液する役目を担っており、神経疾患や免疫性をよりよく知る上で重要な組織です。これまでリンパ系組織は脳内には存在しないものとされてきていました。

中枢系リンパ管は、脳内部及び外部血管から血液を廃液する硬膜静脈洞内にあり、またその主要血管付近にあるということです。中枢系リンパ管の存在の発見は、多発性硬化症や、アルツハイマー症、自閉症などといった難解な疾患を理解し学ぶ上で大きな役割をはたすのは確かだということです。リンパ系は動脈から血漿成分が血管外に流れ出て、その液体が酸素や二酸化炭素の受け渡しを行い、ブドウ糖などのエネルギー源の受け渡しを行います。それらの液体がリンパ液となって排水されて静脈に戻るということで、生体内の細胞は生き続けることができます。もしもリンパ系がつまり、狭窄してうっ滞すれば、液体は停滞し、細胞は酸欠に陥り機能しなくなります。これまで原因不明とされていた神経疾患がリンパ系の炎症によるうっ滞が原因で神経細胞が壊死していく原理などが解明されていく可能性があるとされています。下垂体周囲にも硬膜静脈洞は存在し、頭蓋骨の歪みも含め、歯科治療とは密接した関係にあると考えます。

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噛み合わせの影響は頭蓋骨の歪みに留まりません。全身に及びますが、特に位置的にも近接し、直接的な変化、反応をもたらされる筋肉が多数存在することから頸部、頚椎への影響は大きいと考えられます。頚椎、胸椎、腰椎の内部、仙骨に至るまで、内部には脊髄を有し、そこからは脊髄神経が伸びて、臓器、脈管、筋肉、皮膚、多くの運動、感覚を司っています。 アスリートの噛み合わせと今後-その2_13

頚椎から脳にかけては副交感神経支配領域にあたり、体表面の感覚は、指、手、腕から上位を支配しています。頭蓋骨の歪みと同じく、筋肉の過緊張により頚椎の並びに歪み、傾き、ずれ、捻じれが引き起こされることにより、脊髄神経の神経根が圧迫され神経系の働きに異常をきたすことが考えられます。

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臨床的に言えば、手のしびれ、睡眠導入障害、臓器の不調、頭痛、めまい、難聴、それらの症状の変化、改善は治療を進める上でよく診られるものです。

ただし、全身を総合的に診た場合、噛み合わせが原発のものばかりではないので、外傷によるもの、疾病によるもの、先天的なもの、後天的変形、呼吸器やその他臓器の問題によりもたらされるもの、生活習慣による影響。それらに十分な考慮が必要なことは間違いありません。

しかし噛み合わせの影響に関しては不調を調査する上で最大限重要な要素だと考えています。

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