アスリートに見る顔の歪みと首の回旋可動域-噛み合わせの調整の有効性-
内海選手は右目が下がり、上顔面が右に傾き、下顎の先が右に入り、頭頸部全体が右に傾いています。
噛み合わせからの体への影響を調べる場合、本来はレントゲン写真による骨レベルでの頭蓋骨、頚椎の歪み、傾き、捻れ、ずれなどの変位を確認しないと正確に把握はできません。
しかし外観から読み取れる情報も多々あります。
内海選手の状態は右側の側頭筋、咬筋、内外側翼突筋、後頸筋、胸鎖乳突筋、の過緊張によるもので、噛み合わせの不整を予測すれば、右側臼歯部の動きの中での当たりに問題があると思われます。
笑うと表情筋は右側にひきつります。写真からは少し見られる前歯の歯並びに乱れが見え、右側の上下犬歯の関係性は悪そうです。犬歯の関係性が悪いとほとんどの場合同側の臼歯部の咬合に問題が起こります。
筋肉の過緊張のバランスが内海選手の場合右側が緊張側になっているので全身運動の右回旋は得意、左回旋運動は苦手となります。下顎を右に動かしたまま左に回ろうとしてみてください。回りにくくて当前ですが、内海選手の身体は基本としてその特徴を持ち合わせています。
運動はなんでもそうですが、走りながら左にステップを踏む時は身体の重心が左にシフトして、噛み合わせも下顎が左方にずれています。右にステップを踏めばまたそれは逆の動きとなります。噛み合わせは動きの中で一所にはないということを知っていてください。
内海選手の投球動作を例として説明すれば、まず左足に重心を乗せ、その時下顎は左に入るべきです。イコール左回旋しやすい状態で身体をひねり、力を十分に貯めます。投球動作に入り、左回旋が入っていることで右肩を開かないようにがまんすることができ、右半身に壁をつくることができます。後はその壁をできるだけ投球動作の中で我慢して長く保持し、右回旋の中で腕を振る。球をリリースする時は外側翼突筋により下顎を若干右の前方に出してロックさせます。投手がボールをリリースする時の重心はサウスポーの内海選手で言えば、右半身。右足のかかとと右側の中臀筋が力を受ける場所となります。前足に重心が移り、腕を振り切る時は下顎の位置は右に入ります。これが私の考える投球動作時の理想的な下顎の動きのコントロールです。
ハンマー投げの室伏選手は左回旋運動で、投げる直前の下顎の位置は右側前方です。前方でロックはピッチャーのボールのリリース時によく似ています。顎が若干でも右に入ることで身体の左側に壁をつくることができ、投げる瞬間に壁にぶつけることで力が発揮されます。あとのフォロースルーはみなさんがご存知の通り雄叫びを上げて力を解放するわけですね。運動中口を開けることで頭頸部の余計な筋肉の過緊張をつくっていないことにも注目です。
話を戻すと、内海選手の頭頸部は右に曲がっています。そのことからだけでも右回旋側への身体の力は強く、左回旋は弱いとわかります。
下顎が左に入りにくく、重心が左に乗りにくく、
右回旋が始まりやすく右肩が我慢できなく開きやすく、壁が崩れやすい歪みです。それにより球の出所がバッターから見えやすくなり、打たれやすくなります。
私が思う下顎の使い方のうまいピッチャーを紹介します。
前田健太選手です。前田選手の顔の歪みは少し複雑で、レントゲン写真で詳細をみないと調整を間違いやすいケースかと思います。右目が下がり右側の咬筋が強く働いていることは間違いありませんが、下顎の位置は若干左にずれています。下顎骨の前部が左、奥が右にずれているかもしれません。とにかく右の奥歯が強く噛んでいることは間違いありません。このケースは右回旋も左回旋もしにくくなる可能性があるので慎重な調整が必要だと思いますが、現段階で前田選手は身体操作において、下顎の使い方が非常に上手だと思いますので良い例として紹介させていただきます。
投球動作に入っても口が開いています。これは力みのない証拠です。可動域も充分あります。身体の左側にはしっかりと壁が作られ、重心が右に入る時は下顎が右に入ります。
重心が左に移動する時に下顎は左に移動します。これで左回旋がしやすい状態がつくられます。しかもこの状態でも口が開いて筋の過緊張をおこしていません。このタイミングが早くなれば身体は開いてバッターから球が見えやすくなるでしょう。リリース近くなると下顎が前に出ます。動きを止めて身体の内側に力を込める動作(スタビリティ/ウェイトリフィティングなど運動というより固定の動作)以外は奥歯でくいしばる動きは必要ないと私は考えています。前田選手の下顎を前に出す翼突筋をうまく使う動きは室伏選手とよく似ています。
内海選手と真逆のパターンで噛み合わせからの影響を受けて状態の悪いと思われる選手を紹介します。
松坂選手です。
松坂選手は右側の犬歯の関係がありません。犬歯は噛み合わせにとって関わる筋肉の緊張、緩和に一番深く関わり、噛む位置を長期で崩さずコントロールする舵取りを担う一番重要な役割をもつ歯です。左右上下の犬歯の位置関係が正しくあることは非常に重要です。松坂選手のように上下の犬歯関係がないような状態だと犬歯以降後ろに並ぶ奥歯がどう動かしても当たる状態になってしまいますから、絶えず右側の咬筋が働く形になり、右目は引っ張り下げられ、下顎は右後上方に引き上げられる形になります。
内海選手と歪みは大まかには同じです。右投げと左投げの違いが大きな違いです。松坂選手の歪みは右投げの投手としては悪い歪みではありません。重心は奥足にしっかりとシフトし、力を貯めることができ、身体の左側には壁ができて、右に回旋がしっかりとできるうちは球の出どころの見にくい、力の伝わる身体操作ができると思います。しかし噛み合わせのずれが強くなってくると側頭筋、咬筋、内外側翼突筋、僧帽筋、胸鎖乳突筋あたりが緊張して左回旋することがどんどん難しくなってきます。
松坂選手の投球フォームの若い頃と現在を比較してみます。
右側の頭頸部の筋肉が過緊張して首が、身体が回りません。これは噛み合わせが大きく関わっています。内海選手には松坂選手と同じことが起こっていて、左右投げ方の違いが違う動きの問題点として現れていると思います。
内海選手は身体が開く。松坂選手は身体が回旋しない。
頭頸部の筋肉の過緊張により下顎の動きに問題が現れ、全身の運動に影響を及ぼすことを説明しましたが、パフォーマンスを向上させるためにはもう一つ重要なことがあります。それは首の回旋可動域です。首の回旋可動域は噛み合わせに大きな影響を受けます。
アスリートにとって首の回旋可動域は非常に重要です。若いころは筋肉の柔軟性が十分で、噛み合わせが悪くても可動域は広く、重心移動も、身体の粘りも、我慢も、やれてしまいます。松坂選手の犬歯の関係がなくて、噛み合わせが悪いことなど、今にはじまったことではなく、小児期からです。歳を重ねることによって噛み合わせの状況は、歯が磨耗することや、位置が動き上下の歯が悪くはまりこんだりすることによって悪くなり可動域は失われていきます。噛み合わせは首の可動域に大きく影響を及ぼします。
私のところに通院しているアスリートで写真の使用許可を得ている選手の調整の前後変化を見てもらいます。
総合格闘技元チャンピオン/プロレスラーの川口選手です。
調整前
調整後
格闘技団体DEEPで活躍する総合格闘技、釡谷真選手です。
調整前
調整後
UFCに参戦中。総合格闘技、世界の舞台で活躍している安西選手です。
調整前
調整後
元ラグビートップリーガー(RICOH)住田元選手です。
調整前
調整後
川口選手は数ヶ月ぶり、久しぶりの調整。釜谷選手は複数回の調整が進んだ状態。安西選手、住田元選手は頚椎ヘルニアを患っていて、その状況改善が目的です。安西選手は初回。住田元選手は調整二回目です。
伝えたいことは噛み合わせの調整が首の回旋可動域を広げる。頭頸部筋肉の過緊張を緩和させることができるということです。
偉大な二人のバッターを例にあげます。イチロー選手、王さんの顔には共通した歪みが存在します。目の高さが左目が低く、下顎の先端が若干左に入り、口角と目の距離、下顎の高さが右側より左側が短い。笑うと左側が引きつります。これはわかりやすい例です。二人とも食事の際は左側で噛むことが多いでしょう。噛み合わせは下顎が左にずれ込んでいて、左の奥歯に強い引っ掛かりが存在する場合が多いです。そうなると左の咬筋が右側より強く働きますから顔は二人のように歪みます。下顎が左にずれた状態で右に回旋運動することは難しいです。偉大な二人にこの共通点があるように、あるバッターに同じ傾向が見られます。
大谷選手です。二人と同じ顔の歪みを持ちます。こう書いてしまうとこの三人が特別のように思いますがよいバッターにはだいたい同じ傾向が見られます。三人は左構えですから、歪みから読み取るに、右回旋は不得意なので、単純に考えれば打つ方向に身体が回りにくいのでよくないことのようですが、身体が逆方向(左回旋)しやすいということは身体の右側に壁がつくりやすいのでバッターとしては踏み出す足の内側にしっかりと力が入り、身体が開きにくいので力を伝えやすい歪みといえます。イチロー選手のバッティングフォームを見てもらえばわかりやすいかと思います。
注意点としては、歳をとれば歯はすり減り、噛み合わせは強くなるわけで、左にばかり負荷のかかる噛み方をしていれば、一番力を受け続ける歯は他よりもダメージは大きく、磨耗も著しいでしょう。上下の歯は歪んだ方向にはまり込んで負担を強めていきます。例に挙げているイチロー選手と大谷選手。食事は左でばかり噛まないほうがよいでしょう。うつぶせ寝、片肘をつくなど、体癖で下顎が左奥に押し込まれる習慣があれば非常に危険です。左奥歯の噛み合わせが強まれば右回旋運動がどんどんしずらくなるので、左バッターであればインコースの速い球には詰まることが増えるでしょう。歳を重ね反応が遅くなってくるだけではなく、噛み合わせから回旋運動がしにくくなるわけです。メンテナンスとしては頭蓋骨、頚椎の歪みのチェック、改善、右回旋がしやすいように咬筋、側頭筋、内外側翼突筋、僧帽筋、胸鎖乳突筋、の緊張をほどくように噛み合わせの調整を入れ、場合によっては、回旋しやすいように、意図ある形のマウスピースを作成するのも有効だと思います。大谷選手は若いですから、バッターとして現在問題はありません。筋肉の柔軟性もあるでしょうから、噛み合わせや歪みからのこともたいした問題にしないでしょう。しかしこの歪みが強まっていくならば、まちがいなくいずれ問題になります。ピッチャーとしては現時点でずいぶんと問題があります。左右の違いはありますが。内海選手と大谷選手は同じ問題を抱えています。
田中選手を例に挙げると。
田中選手の目は右目が下がり、口角と目の距離も右側の方が短く、下顎は右にずれています。笑うと右側が引きつります。左回旋はしやすく、右回旋は苦手でしょう。きっと就寝時の身体の体勢も右に向きます。右投げのピッチャーの場合良い投手にはこの傾向が強いです。なぜならば、バッターのところで説明したのと同じく、ピッチャーは投げる方向の前手と前肩ができるだけ開かず壁をつくらなければいけません。身体が開くと手投げなり、身体に負担がかかる他、球の出どころがバッターに見やすくなってしまいます。疲労が溜まってくるとボールは外方向に抜けてくるでしょう。大谷選手は田中選手と真逆の歪みを持っています。160キロを超える球速を投げますが、憶測ですが田中選手と比較すると球の出どころは見やすいのではないかと思います。そして球が思うより右に抜けることが多いと思います。疲れて力で抑えの効かない時、力んだ時にはこの状態に陥りやすいでしょう。そして、この噛み合わせが助長され、歪みが強まれば、バッターとしてはいいですが、ピッチャーとしては難しくなっていくのではないでしょうか。長く驚異的な選手でいるために、噛み合わせの調整と、生活レベルの中での注意点を見つけて訂正することが良いと考えます。
他のスポーツでも同じことが言えます。サッカーの中村俊輔選手と宇佐美選手を例に説明すると
中村俊輔選手は左目下がり、下顎が左にずれているので、左回旋が得意、右回旋が苦手。なのでレフティーの中村選手には左足で蹴る時右半身にしっかりと壁をつくることができます。宇佐美選手は右目下がり、下顎が右ずれ。歪み方が大きく、少なくともレントゲン写真で確認しないと正しくは言えませんが、下顎骨の変形を持っていそうです。右の犬歯の関係も確認はできませんでしたがよくなさそうです。右回旋が得意で左回旋は苦手だと思います。右足でのキックは身体の左に壁をつくりやすく得意です。左足でのシュートも売っていますが、壁がつくりづらく身体が開きやすいので得意ではないはずです。加えて宇佐美選手はドリブラーですから、左サイドを駆け上がっていき、右にドリブルで入っていき、右足にボールを持ちシュートを打つのが歪みの理にかなっています。左方向にドリブルで相手を抜きに行くのは苦手なはずです。左後方へのバック走は一番苦手だと思います。この歪みが大きくなれば更にその傾向は強まると思います。とはいえまだ若く、筋肉に柔軟性もあり、トップアスリートなので関係なくやれているかもしれませんが、食事の際右側ばかりで噛まないように左側とバランスをとり、下顎の左側から力がかからないように、うつぶせ寝は絶対に禁忌、肩肘をつくなど体癖にも注意したほうが良いです。なによりしっかりと検査して、問題が見つかれば、噛み合わせの調整で頭蓋骨頚椎の歪みを解くように調整して左回旋しやすいように調整を施し、+αとして、重心移動、回旋運動、盛り込んだ、意図あるマウスピースをしてみてもよいのではないかと思います。
中村選手の歪みは宇佐美選手の逆なので、ドリブルするにも宇佐美選手と逆の方向への動きが得意ということになります。中村選手も歪みを利用してプレーをしているタイプの選手だと思いますので、調子を崩す、パフォーマンスを落とすようなことがあれば、噛み合わせをチェックするべきです。
私は仲の良い格闘家の試合前に相手の分析を行うのですが、そこで歪みを見ます。そうすると対戦相手のタックルの入る方向、投げを打つ方向、どのパンチが長く伸びて、どのキックが力強いかわかります。
ワードという格闘技の選手です。(身体に引いた線は歪みが見えやすいように引いただけのもので、正しい基準点はとっていません)この歪みをみれば右回旋が得意、左回旋が苦手。なので左ジャブ、左フックは伸びるが身体は壁を失いやすく開くので強くなく、逆に右パンチは壁がつくられロックが強く威力があるでしょう。しかしこれだけの歪みなので距離の長い伸びるパンチは右からは打てません。ガードも右は下がりやすいでしょう。タックルは右側に頭が傾くように入り、投げは左からの右回旋が得意です。
バレーボールなども個々のレシーブの得意、不得意な方向は同じ理由で決まります。サーブは不得意な方向に身体から離れていくように打てばミスを誘いやすいと思います。
噛み合わせが頭蓋骨、首の歪み、傾きに関わることを二人のアスリートの調整経過を使用して説明します。
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川口雄介選手総合格闘技DEEP元メガトン級チャンピオン/プロレスラー
初診時は口が指1本半くらいしか口が開かず、唾液が出ない、首の可動域が狭い、全体的に身体の不調感を訴えているという状態(真ん中の写真)でした。2週間に一度の噛み合わせの調整を4回行ったのが右のレントゲン写真(顔の長さが短くなっているのは初診時の方が少し顎を引いた姿勢をとっているため)です。両目、鼻が左に引っ張られて、なにより第一頚椎の位置が鼻の右にずれて写り込んでいたのが調整後は真ん中に揃ってきているのがわかると思います。口は指三本分、大きく開口できるようになり、唾液も戻って来ました。首の回旋は、可動域も運動も本人がこんなに動くのかと驚くほどの変化が現れました。パンチも伸びるようになり、なにより本人曰くキックがかなり出やすくなったとのことです。現在は2ヶ月に一度ほど、また試合前に合わせて調整をおこなっています。まだ調整の余地あり。
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釜谷真選手総合格闘技
トレーナーから技術、筋トレ指導、メンテナンス、様々施しても右パンチの動き(左回旋の動き(身体操作)がうまくいかない(パンチが伸びない。顔が残ってしまう)ということで調整を依頼されました。本人の感じている症状は疲れてくるとすぐ右の首の後ろから肩にかけて張りを感じるくらいのもので他に大きい問題は抱えていませんでした。真ん中のレントゲン写真が初診時のものですが、首も頭蓋骨も右に引っ張られるようにずれているのがわかります(鼻筋に注目するとわかりやすい)。1週間に一度の噛み合わせの調整を4回行ったのが右のレントゲン写真です。右に引っ張られていた緊張がだいぶとれて頭蓋骨の歪みもすくなくなっています。4回の調整を終えてからも一月に一度はチェックと調整に来ています。食べ方や寝方、生活習慣の中での癖に対しての指導をおこない、併せて注意してもらっています。本人が明らかに身体の変化を感じ取れているのもありますが、元来まじめな選手で、パフォーマンスを向上させることに貪欲で、指導に対して素直に取り組んでくれる、そういうケースはやはり成果が出やすいと思います。
現在は首の傾きもかなり改善され、右パンチもしっかりと打てるようになり、トレーナーからも劇的に良くなったと報告をいただいています。
噛み合わせの不整は全身に影響があります。調整により、頭頸部の筋の過緊張を緩和させることができ、首の回旋可動域を広げてあげることができます。もうひとつ、頭蓋骨、頚椎の歪みがとれます。頭蓋骨、頚椎の内部には脳脊髄があり、歪むことでストレスは内部にかかります。それがそのような影響を及ぼすかのデータはありませんが、日々の診療の中で起こる臨床上の変化から言えば様々な影響が及んでいることはまちがいありません。
噛み合わせの調整中多く見られる症状変化は他言、寝つきがよくなる。頭の中がすっきりする、目覚めが良くなる、頭や首が軽い、偏頭痛がなくなる。といったものです。データなどの報告に前例がありませんので私的な報告になりますが、そういった変化がアスリートに好影響を与える可能性は、トップアスリートの脳血流の状態が一般人のそれより良いということがわかっているだけに、少なからずあるかと思います。
正確な診査、精査をおこなったわけではありませんが、写真から診るには、内海選手、松坂選手の状態に噛み合わせの不整からの影響が及んでいると思います。
ご興味があればご連絡ください。よろしくお願いします。