アスリートの噛み合わせと今後-その4

その3の続きです

(4)噛み合わせとアスリートの体調管理

パフォーマンスの向上との関係。身体の歪みを引き起こす原因は大雑把に言えば筋肉の過緊張です。詳細には、筋肉周囲のあらゆる細かな組織の過緊張、外傷などによる癒着、瘢痕治癒、他、神経系統の問題、緊張の種類も細分化され、簡単に書き現せられるものではありません。それらにより運動制限がかかり、本来自分の持つ能力を発揮できない、能力の向上を制限し、怪我につながる。といった事態に陥ります。“健康”というものは当人が“問題ない”と感じる、医療とは離れた個人的な感覚の曖昧さを持つ“一般生活を問題なく過ごせる”という個人差のあるものです。しかしアスリートなど肉体に大きな負担をかけながら、ある種の結果を出さなければならない人たちは意識が違うので、その幅は、より範囲の狭い、曖昧さを省いた点に近づくものになります。

歯科の分野は固有感覚受容を持ち、下顎骨の位置を決定させる、歯の存在があるため、他分野の方々(医師、治療家、トレーナーの方々)の問題解決の及ばない場所となっています。そしてその分野の影響は脳脊髄の状態、頸部の可動域、全身の重心、歪みにまで範囲の及ぶ、大きなものです。

一流アスリートの脳血流は競技中も良好で、一般の人とのその差は歴然で、脳の様々な分野が多く使用されています。

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頭蓋骨の歪みとそれによる脳へのストレス、脳血流量の関係性を解いたデータを精査できれば選手の状態を向上させるより良い方法が提示できるかもしれません。頚椎をはじめ椎骨の歪み、ずれ、傾き、脳脊髄神経へのストレスの有無に関しても同じことが言えます。交感神経、副交感神経、をはじめとする中枢神経系、その他リンパや血液もしかりです。その状態により、栄養摂取による回復、代謝、その他にも大きな変化がもたらされます。その状態が良好である上で摂取する栄養、サプリメントの選択がなされなければ、効率良くアスリートのパフォーマンスや回復につなげることは難しいでしょう。

アスリートに関わらず、すべての人の生活レベルの運動にも、個々の重要性には違いがありますが、問題は等しく同様に存在します。

噛み合わせの不正によりもたらされる筋肉の過緊張はわかりやすくは頸部に現れ、可動域に大きな影響が現れます。首の可動域が狭まることはアスリートのパフォーマンスに多大な影響を及ぼします。

野球で言えば、ピッチャーは投げる時構えるキャッチャーのミットに対して右ピッチャーならば左目、左ピッチャーならば右目を主として目標を捉え、首の可動を十分に使い、弓を引くように重心を軸足側に置き、ためをしっかりとつくります。バッターであれば右打者は身体の左側に、左打者は右側に壁を作り、首の可動を十分に使うことでバットを持つブリップをしっかりと全身の力を軸足の中臀筋に溜めれた状態の、力が十分に溜められたトップの位置へ導き、始動へと繋げます。バレーボールで言えばアタックの時首の可動域を十分に使うことで、打ちこむ動作の前にしっかりと溜めをつくることができます。テニスも同様の動作の連続です。

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噛み合わせが悪いと首の可動域は狭くなります。

患者さんの治療の調整前後の写真で説明します。

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彼女は治療途中です。今回来られた時は右側胸鎖乳突筋に張りが出ていて、左側は肩の後ろから背中にかけて突っ張って痛いという症状がありました。噛み合わせの変化を確認して調整。可動域は上がり、症状は消失しました。

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彼女はヨガのインストラクターをしており、病的な症状はありませんが、首の回旋運動に制限を感じていました。知り合いの紹介で、噛み合わせからの関係に思い当たりがあるということで調整を希望されてきました。調整後は頸部の緊張はとれて、特に右方向への首の可動域が拡がりました。

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総合格闘技元チャンピオン、プロレスラーの方です。久しぶりに来院されたこの日は右肩が前に回旋して下がり気味で、身体全体が左に捻じれている状態でした。本人曰く身体の調子はよく、練習もよくできているがときどき噛んでいるとがりっと奥歯が強く当たる感じがする。ということでした。調整後右方向への首の回旋可動域が上がりました。私は治療の際、全身の状態の把握と、噛み合わせの問題になる箇所を調べるひとつのチェックポイントにつま先の開き具合を診ます。

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彼の調整前のつま先の開き方と調整後のつま先の開き方です。噛み合わせは足の先まで影響を及ぼすことがよくわかります。

噛み合わせ調整前

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噛み合わせの調整後

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噛み合わせの調整により、筋の緊張は緩和され、頸部の可動域には変化が現れます。

松坂選手で説明します。

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西武時代よりレッドソックス時代の方が首の可動域が狭くなり、タメや粘りといった動作ができなくなっているように見えます。

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松坂選手は右の上下犬歯関係がありませんから右側咬筋の過緊張、胸鎖乳突筋、僧帽筋を中心に右側後頸筋群の過緊張から左へ回旋する首の可動域は著しく狭くなっています。それは過去の投球フォームと近年の投球フォームを比較すれば一目瞭然です。

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松坂選手の右の犬歯関係がないことから右側の咬筋、頸部筋肉の過緊張を起こし、頸部の回旋運動に影響を与えることは間違いありません。

首の可動域がしっかりと広くあるということはどの競技にあっても、アスリートにとって非常に重要です。

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偉大な二人のバッターを例にあげます。

正確に、そして詳細に分析するには最低限レントゲン写真によって骨レベルで、そしてその正面像のものを用いなければいけません。そして一方向だけでなく、頚椎の状態を知るには側方向のものも必要です。なので大まかな診断になりますが、写真から読み取れる共通点に注目してみます。

イチロー選手、王さんの顔には共通した歪みが存在します。目の高さが左目が低く、下顎の先端が若干左に入り、口角と目の距離、下顎の高さが右側より左側が短い。笑うと左側が引きつります。これはわかりやすい例です。二人とも食事の際は左側で噛むことが多いでしょう。噛み合わせは下顎骨が左にずれ込んでいて、左の奥歯に強い引っ掛かりが存在する可能性が高いです。そうなると左の咬筋が右側より強く働きますから顔は二人のように歪みます。下顎が左にずれた状態で右に回旋運動することは難しいです。

下顎を極端に左にずらして右に回ろうとしてみたらよくわかります。回りにくいはずです。逆に左回旋はしやすいはずです。お二人にこの共通点があるように、あるバッターに同じ傾向が見られます。

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大谷選手です。

二人と同じ顔の歪みを持ちます。こう書いてしまうとこの三人が特別のように思いますがよいバッターにはだいたい同じ傾向が見られます。三人は左構えですから、歪みから読み取るに、右回旋は不得意なので、単純に考えれば打つ方向に身体が回りにくいのでよくないことのようですが、身体が逆方向に回旋(左回旋)しやすいということは身体の右側に壁がつくりやすいのでバッターとしては踏み出す足の内側にしっかりと力が入り、身体が開きにくいので力を伝えやすい歪みといえます。イチロー選手のバッティングフォームを見てもらえばわかりやすいと思います。

いいことばかりではありません。注意点はあります。歯は経年的に磨耗していくものです。そして矯正治療で歯を動かすことからわかるように歯は力がかかれば場所を動きます。歳をとれば歯はすり減り、噛み合わせは強くなります。左にばかり負荷のかかる噛み方をしていれば、一番力を受け続ける歯は他よりもダメージは大きく、磨耗も著しいでしょう。上下の歯は歪んだ方向にはまり込んで負担を強めていきます。当然周囲筋の緊張の影響も重なり、歪みも強まることでしょう。頸部の回旋可動域にも影響は及びます。前述した松坂選手の診断を確定することはできませんが、投球フォームの経年変化と右側上下の犬歯関係がないことから、その状況にあることが考えられます。

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田中選手の目は右目が下がり、口角と目の距離も右側の方が短く、下顎は右にずれています。笑うと右側が引きつります。右回旋はしやすく、左回旋は苦手でしょう。右投げのピッチャーの場合良い投手にはこの傾向が強いです。なぜならば、バッターで説明したのと同じく、ピッチャーは投げる方向の前手と前肩ができるだけ開かず壁をつくらなければいけません。身体が開くと手投げなり、身体に負担がかかる他、球の出どころがバッターに見やすくなってしまいます。疲労が溜まってくるとボールは外方向に抜けてくるでしょう。大谷選手は田中選手と真逆の歪みを持っています。160キロを超える球速を投げますが、憶測ですが田中選手と比較すると体が開きやすく球の出どころは見やすくなります。そして球が思うより右に抜けることが多いと思います。疲れて力で抑えの効かない時、力んだ時にこの状態が現れやすいでしょう。この噛み合わせが助長され、歪みが強まれば、大谷選手はバッターとしては良いですが、ピッチャーとしては歳を重ねるごとに難しくなっていくことと思います。長く驚異的な選手でいるためには、噛み合わせからの影響に対しての対策とそれに対する生活レベルの中での注意は必須だと思います。

他のスポーツでも同じことが言えます。サッカーの中村俊輔選手と宇佐美選手を例に説明すると

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中村俊輔選手は左目下がり、下顎が左にずれているので、左回旋が得意、右回旋が苦手。なので左利きの中村選手には左足で蹴る時右半身にしっかりと壁をつくることができます。宇佐美選手は右目下がり、下顎が右ずれ。歪み方が大きく、少なくともレントゲン写真で確認しないと正しくは言えませんが、下顎骨の変形を持っていそうです。右の犬歯の関係も確認はできませんでしたがよくなさそうです。右回旋が得意で左回旋は苦手だと思います。右足でのキックは身体の左に壁をつくりやすく得意です。左足でのシュートも打っていますが、壁がつくりづらく身体が開きやすいので得意ではないはずです。加えて宇佐美選手はドリブラーですから、左サイドを駆け上がっていき、右にドリブルで入っていき、右足にボールを持ちシュートを打つのが歪みの理にかなっています。左方向にドリブルで相手を抜きに行くのは苦手なはずです。左後ろに動く動きも苦手だと思います。この歪みが大きくなれば更にその傾向は強まると思います。中村選手の歪みは宇佐美選手の逆なので、ドリブルするにも宇佐美選手と逆の方向への動きが得意ということになります。

バレーボールのレシーブは瞬発的な左右回旋運動を必要とします。強い歪みを持つ選手は顕著な苦手方向を持ちます。レスリングの選手は得意な方向のタックル、投げが限定され、運動制限が大きければ大きいほど、種目関わらず、ひざ関節などけがをしやすい箇所も予測されます。

噛み合わせは下顎の位置、上下の歯の位置、歯の形の三要素により決まり、不良により引き起こされる筋肉の過緊張は頭蓋骨、頚椎の歪みの原因となります。

それは脳脊髄に影響、全身の歪み、重心の変化、頸部の運動制限を引き起こす可能性があり、疾病、体調不良、怪我を引き起こし、運動パフォーマンスの低下につながるものです。

医科と歯科が別れているためその影響に関するデータは世界的にみても乏しく、皆無に近い状況です。お互いの協力の元噛み合わせの変化により脳血流量に変化が起きるということが調査できれば、現在治療法不明とされている疾患の解明につながる可能性もあります。

カイロプラクティックを始め、治療家の方々、トレーナーの持つ知識は身体の動的なものに関するものが多く、医療にある静的なものに加味することで内容に改めるべきヒントはあります。しかし医療と分けられていることで交流や共同研究などは少ないと思います。前述しましたが、医療とされなくとも医療分野で施術をしていることに変わりはなく、そこに正確な診断材料を欠くことは危険につながります。少なくとも医療分野に携わるものはレントゲン写真という診断材料を手にし、危険を回避する術が必要です。そして、医療連携の際に使用されれば良いと思います。

東京オリンピックに向けて、日本のアスリートの強化は進むことでしょう。そこに噛み合わせからの視点を加えることは有意義なものになると考えます。

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